約 5,047,524 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1626.html
呪いと嘆きの縛鎖を、断ち切って(その二) 第三節:奈落 嵐が吹き荒ぶ、ビルの街。道路の上に立ったアタシ達の前で、“悪夢”は 殺す為の姿を形取ったわ。それは、バケモノ。漆黒の鎧は騎士っぽいけど 一つしか目のないソイツは、身の丈に迫る様な大きい鈎爪を振りかざして 吼えたのよ!……その瞬間、周囲の空気が音速を超えて盛大に弾けたわ。 『ォォォォォ──────ッ!!!!!!』 「ぅ、っ……!咆吼だけで、ヴァーチャルフィールドを歪めてますの!」 『聞こえるか二人とも!アルマとクララの“騎士と龍”も装填した!』 「サンキュ、マイスター……!さぁ、お姉ちゃん達を返しなさいッ!!」 でも、それに怯んではいられない。アタシは、背中の二連可変翼を開いて 全速力で突撃したわ。躯が軋むけど、そんな泣き言は言ってられないの! マチェットを抜き払い“敵”を削除する為に……まずは、刃を一閃ッ!! 「……あ、れ?」 「速い、ですの……エルナちゃん!」 「え?……きゃうんっ!?」 だけど、両手に握っていた剣は虚しく宙を切り裂き……咄嗟に回り込んだ “悪夢”という名前の獣は、アタシを強かに叩き落としたの。痛いわ…… 全身が引き裂かれる様な衝撃が、アタシの全身を焼き尽くしていくのよ。 「この……馬鹿力ァッ!!」 『グルアァァァッ!!』 『ォォ──ッ!?』 抗おうとしたアタシを救ったのは、アルマお姉ちゃんの龍。彼女の角が 悪夢を突き飛ばし、アタシを救ってくれたのよ。助かったと思った時、 アタシとロッテお姉ちゃんは見たわ。その、ファフナーの角を……!! 『ォォォ……ォォォォォ──────ッ!!』 『グル!?グ、グァァアアッ!?』 「ファフナーッ!?いけない、離れてくださいですの!!」 『ォォ……ォァァァーッ!!!』 『グルァアアアッ!?グ、ア……』 「ちょ……嘘、でしょ……?」 “悪夢”は角を巨大なクローでしっかりと受け止めて、力に溢れている ファフナーを、そのままビルに投げつけたの!突っ込んできた龍の躯で 虚像の構造物は、あっさりと崩れ落ちていくわ……何て、規格外なの! 「アルサス、モリアン、フィオナ!ギガノイド・フィギュアですのッ!」 『Yes,sir/No problem/Ja(ロック解除、合体します)』 『ォォ……!?』 だけど、まだ誰も諦めていないわ。ロッテお姉ちゃんは、あの騎士を三機 寄せ集めて、巨大な“ナイト”に変身していくの。その姿はとても華麗。 でも、見惚れてばかりじゃいられないわ……アタシも、行動を起こすッ! 「……これは、どうよ!!せぃっ!!」 『ォッ──────ォォォ……!』 「嘘ッ!?刃が、通らない……きゃああっ!!」 人間を殺す為に鍛えられた、首筋を狙う暗殺剣。重要なラインを突きの 一撃で破壊する、さっきは繰り出せなかった一撃。今のアタシにとって あまり使いたくない技だったけど……その甘さがいけなかったわ。奴の 鎧を貫き通す事は出来ず、そのままアタシは掴まれて……投げられる! 「制御が……間に合わない!きゃぁぁぁぁ……ッ!!」 『クルルゥッ!!』 「うっ!?貴女は、クララお姉ちゃんの!?助かったわ……」 危うくファフナーと同じ運命を辿るかと思ったけど……それを救ったのは クララお姉ちゃんの龍・リンドルム。長細い躯を使って、アタシを咄嗟に フォローしてくれたのよ。助かったけど、掴まれた腕が……動かないわ! モーターを破壊されたか、外殻が軋んでいるのか。ともあれ、拙いわね。 「よくもエルナちゃんまで……仇ですの!せああああっ!!!」 『ォォ──────!!?』 「その身に刻め……神儀、ハイリヘア・シュラークッ!!!」 アタシの状態を察知したロッテお姉ちゃんは、合体して出来たレーザーの 槍で、超音速のチャージを“悪夢”に仕掛けたわ。爆音と共に刺さった、 光の刃……でも、一向に奴が怯む様子はないの。アタシは遮二無二、宙を 蹴って舞い上がり、奴の頭に向かって脚のパイルバンカーを突き立てた! 「ふっ……はあああぁぁっ!!せあっ!!」 「エルナちゃん……!?そんな腕で大丈夫ですの!?」 「大丈夫よ。弱音なんか吐いてられな……痛ッ!」 『ォォォォォ──────』 「うく……な、直撃しているのに……全然ダメージがないですの!?」 『ォォ──────!!!』 『きゃあああああああっ!!?』 間違いなく、普通の人間……そしてMMSでも致命傷となる、腹と頭部への 刺突攻撃。でも、そんな規格に囚われていない“悪夢”は、平然と二人の 腕と脚を掴み竜巻の様に振り回して来たのよ。意識が、遠くなるわ……! 『キュィイイッ!!』 『クルルゥッ!!』 「きゃん!?……う、ウィブリオ!?助かりましたの!」 ズダボロになりかけるアタシ達を解き放ったのは、生き残っていた二匹の 龍。ロッテお姉ちゃんのウィブリオと、クララお姉ちゃんのリンドルム。 彼女らが口から大きな砲弾を吐き出して、“悪夢”を牽制したのね……。 「痛ぅ……でも、あれなら行けるわ。彼奴、空は飛べないみた──」 『ォォァァァ──────!!!』 「ッ!?……そんな、ビルを蹴って跳びましたの!それにあれ……!」 「そんな、アレは……“魔術”!?どういう事よ!何で!?」 でもそんな抵抗だって、儚い蝋燭の斧。奴は、獣じみた驚異的な膂力と 悪魔の様な狡猾さで……龍の頭上へと達したのよ。そして、その手には ドス黒い球体。あれは間違いなく、アタシが戦いの中で覚えかけていた “魔術”……ううん、アレはひょっとして……クララお姉ちゃんの!? 「ぅう……いけない!横に跳びますの、エルナちゃんッ!!」 「う、うんっ!御免、二匹ともッ……!!」 『ォォ──────!!!』 『キュイイィィィッ!!!!?』 『クルアアアァァーッ……!!!?』 『グオ……ォォォッ!?』 ──────本当にこれは……圧倒的すぎる、“悪夢”よ。 第四節:絶望 咄嗟に駆け込んだビルの谷間に、巨大な爆風が流れ込む。アタシはそれに 抗えず、無様に地面を転がったわ。振り返ってみれば、二匹の龍どころか さっきビルに突っ込んだまま機能停止した、ファフナーの姿もないのよ。 「これは……間違いないわね、ロッテお姉ちゃん」 「はいですの。これは、クララちゃんの“魔術”……!」 まだ“魔術”の仕組みを完全に把握していないアタシは、あれ程の攻撃を 繰り出せない。つまり、あの“魔術”は取り込んだ“魔術”の使い手…… クララお姉ちゃんのデータから引きずり出している、って事になるわッ! 「となると、あの悪魔じみた格闘センスは……アルマお姉ちゃん?」 「かもしれないわ。アタシの格闘技もちょっと混じってるけど」 『ォォ──────!』 そう。あの“悪夢”は文字通り、取り込んだ二人の力を使っているという 『悪夢の様な行為』をしているのよ……!射撃以外、全てに秀でた怪物。 装備の殆ども喪われた今、勝ち目は極端に低くなっていたわ……でもッ! 「まだ、動けますの……魔剣が有れば、まだどうにかなりますの!」 「ちょ……ダメよ、一人じゃ拙いわ!アタシも……ッ!」 腰のジャマダハルを抜き払い、再びロッテお姉ちゃんは立ち上がったの。 アタシも追い縋ろうとするけど、さっきの無茶で片足をやられていて…… 飛ばないと、とても移動は出来ない状態だったのよ。それを見て、彼女は 優しく微笑んで、止めたわ……何処までも純粋な“誇り”と共にね……! 「大丈夫ですの、わたしはきっと……勝てますからっ」 「勝てるから、って……そんな剣一本で何をするの!?」 「剣は保険ですの。今使うのは……これですのっ!!」 そう叫ぶと、ロッテお姉ちゃんの全身を再び閃光が覆い始めたわ。そう、 アタシとの戦いで使っていた“約束の翼”。アレをもう一度起動しようと 彼女は意識を集中させ始めたの……だけど、不可解な事が起きたわ……! 『ォ、ォォォ──────!?』 「う、うっ……!?さ、さっきとは全然違いますの……!?」 「光が白くないわ……灰色よ!?どうしたの、ロッテお姉ちゃん!」 「き、きっと中にいる二人分の“翼”が共鳴している所為ですの」 「やめてっ!さっきとは違うわよ、それ!!無理に使ったらッ?!」 そう、さっきは真っ白だった光の鎧と槍……そして翼が、“悪夢”の色と 混じって灰色になっていたのよ。その代わり、奴の胸部からは白い閃光が 漏れ出ていたけど……明らかに“約束の翼”まで、侵蝕し始めてるわッ! 『ォォ、ォォ、ォォォォォ──────ッ!?』 「でも……奴も苦しんでいますの、効いているのは確かですの!」 「で、でも……ッ」 「……心配は、無用ですのッ!!せああああっ!!」 『ォォォォォ──────!?』 それでも苦痛を堪えて、ロッテお姉ちゃんは突っ込んでいったわ。槍を 振るって“悪夢”の手を切り裂いた……彼女の言う通り、効果はある。 だけどその表情はとても辛そうなの。何が起きているのか、アタシには 分からないわ。でも……余りにも危険すぎる、それだけは確かなのよ! 「いけますの!これなら、確実に……せっ!ふぅッ!やぁっ!!」 『ォォッ……ォォォォォ──────!!』 でもロッテお姉ちゃんは、ロクに動けないアタシと……呑み込まれている アルマお姉ちゃんとクララお姉ちゃんの為、休む事なく槍を振るったわ。 確か、彼女は射撃系の高機動型ってマイスターが言っていたのに……全然 そんな風には見えないの。これは、修練の結果?それとも、“心”の力? 『ォォォ……ォォ──────!』 「膝を、突いたわ!?……本当に、アレでいけるかも……!」 「さぁ、愛する“神の姉妹”を返してもらいますの!はっ!!」 アタシには、正直分からない。ここが仮想空間であっても、奴と違って ロッテお姉ちゃんは“神姫の枠”に有る存在。他のMMSを“妹”達しか 見た事のないアタシには、検証なんか出来ないわ。でも……勝てるッ! そんな希望が、確かにアタシとロッテお姉ちゃんの胸にはあったのよ。 『ォ……ォォ──────ッ!!』 「なっ!?槍を……掴みましたの……!?」 「あ、あぁ……ダメ、ロッテお姉ちゃん振り解いてッ!?」 でも、そんな儚い想いはすぐに打ち砕かれたわ。“悪夢”は、止めとなる 光槍の一撃を、禍々しい爪で受け止めたのよ!?しかも、よく見たら…… 奴が掴んだ穂先には、ヒビが入り始めてるの……このままじゃ、ダメよ! 「この……離しなさい、よっ!!」 『ォォ……?ォォォォォ──────!!!』 「ふぇっ!?きゃぁああっ!?」 「ロッテお姉ちゃん!?……きゃんっ!!」 アタシは居ても立ってもいられずに、拳銃を引き抜いて撃ったわ。でも、 奴には掠り傷さえも与えられない……それどころか、奴は槍を振り回して ロッテお姉ちゃんをアタシに投げつけてきたのよ!流石に、銃を投げ出し 受け止めるしかなかったわ。だって、彼女の消耗はさっきより酷いもの。 「う、ぅ……まだ、立てますの。心配しないで、エルナちゃん」 「何言ってるの!?今見たら、アーマーにも……脇腹にまでヒビが!」 「大丈夫ですの……この翼が、折れない限りはッ!!」 『ォォ──────』 それでも、白い破片と羽を散らしながら……彼女は突き進んでいくの。 全ては“誇り”と“大切な人”の為に。唯一の主たる人、マイスターと 契りを交わした愛する姉妹を、“心”を賭けて正々堂々と救い出す為。 それは、とてもストイックで……でも戦況は、あまりに絶望的すぎて。 だからこそ、アタシは。奴に殴られるロッテお姉ちゃんに、叫んだの。 『ォォォォォ──────!!!』 「ぐぅ……きゃああああああっ!?」 「もう、やめてぇえっ!!!」 ──────“悪夢”を、アタシは見ているだけなの……!? 第五節:破局 アタシの叫びも虚しく、“悪夢”はボロボロになったロッテお姉ちゃんを 殴打し……半壊していた灰色の“約束の翼”を、木っ端微塵に打ち砕く。 彼女から離れた瞬間、全ての破片は光の粒子となり吹き飛んでしまった。 ……それはもう、“約束の翼”でも奴には敵わないという事でもあるの。 「……ぅ、うぅ……ッ」 「ロッテお姉ちゃん、ロッテお姉ちゃんッ!?」 気が付けば辺りのアスファルトは、激闘で粉々に砕け散り……更に建物の 瓦礫で、一面大変な事になっていたわ。それが“悪夢”の産み出した幻と 分かっていても、超AIで直接認識する今のアタシ達には、これが現実。 だからそんな地面に落下するロッテお姉ちゃんを、放ってはおけずに…… 辛うじて無事な背中のウィングで移動して、何とか彼女を受け止めたの。 「ダメ……ですの、下手に出て来ちゃったら……ね?」 「冗談じゃ、ないわよ!折角、折角……大事な“姉”が出来たのに!」 「……有り難うですの、エルナちゃん。“心”、開いてくれて」 「バカぁ……こんな時に、何言ってるのよぉ……!」 半ばスライディングする様に受け止めた彼女の躯は、ヴァーチャルなのに 全身に黒いヒビが入ってて、腕や脚も所々……酷い損傷を負っていたの。 こんなになっても、トレーニングマシンは何も言わない。多分“悪夢”が アタシ達を逃がすまいと、安全装置にも細工しているのかもしれないわ。 つまり……もう、どう足掻こうともアタシ達は絶対に……逃げられない! 「こんな時だから、ですの。護るべき存在を……神姫を、感じますの」 「……やめて。そんな手で剣を握ったって、もう勝てないわ!!」 「護るべき物があれば強くなれる。それは、神姫だって……ううん」 『人間と違う生を歩む、神姫故にこそですの』と笑って、今また彼女は 立ち上がるの。機械のアタシ達に、本来喪う物なんてない。だからこそ 喪いたくない“何か”を得た時、スペックにない働きが出来るってね。 それを誰よりも強く持っているからこそ……ロッテお姉ちゃんは、剣を 杖にしてでも、例え戦えない状況でも立ち上がって、刃を構えるのよ。 『ォォ──────!!』 「……幸い、エルナちゃんはわたしより損耗が少ないですの。なら」 「嫌よ!見捨ててなんて、いけない……アタシは耐えられない!」 「有り難うですの……なら、最期の一瞬まで一緒に……!」 「ヤキが回ったわね。でも……お姉ちゃんとなら、一緒に行くわ!」 『ォ……?』 その生き様に魅せられたから、アタシは逃げられない。とても怖いけど、 ロッテお姉ちゃんがもう限界をとっくに超えていると分かっていても…… 彼女を見捨てて自分だけ助かる方法は、既に選べなかったの。アタシは、 その代わりに囓りかけの“魔術”をもう一度再現して、防壁を作ったわ。 それが、アイツの攻撃に何処まで耐えられるかは分からないけど……ね? 「……可愛くて立派な“妹”が増えた事は、本当に嬉しいですの」 「アタシもよ。でもだからこそ、最期まで……諦めずにッ!」 「はいですの、アルマお姉ちゃんとクララちゃんを……絶対にッ!!」 『ォォォ……ォォォォォ──────!!!!!』 そんなアタシ達を嘲笑うかの様に、奴の手にはさっきの球体が産まれる。 アレの威力は、さっき龍達が身を挺して証明してくれたわね。真正面から 喰らえば、多分塵と化してしまう……それでも、逃げないの。絶対にね! 「……歯を食いしばって、耐えますの!エルナちゃん!」 「無茶言うわね。でも……やってみるわッ!!」 『ォォォォォ──────ッ!!!』 恐ろしい大きさに膨れあがった球体は、奴の手から音速を超えた勢いで アタシ達に撃ち出された。目の前が暗黒に染まっていく……そう思った 瞬間、逆に眼前は純白の光で包まれたのよ!その中にいたのは……!! 『くぅ……はああぁあああっ!!』 『う、ぐ……ぅうううっ……!!』 「え……その姿、アルマお姉ちゃんですの!?」 「クララお姉ちゃんね、一体どうしてッ!」 “約束の翼”を纏った、二人の“姉”だったのよ。彼女らは、魔剣を構え アタシの“防御魔術”を強化する形で、エネルギーを押し止めているわ。 何が起きたか、アタシにも……ロッテお姉ちゃんにも、分からなかった。 『ボクらのデータは、まだアレの中に囚われてる。でも……』 『聞こえたんです、ロッテちゃんとエルナちゃんの決意がッ!』 『それで思い出したよ。マイスターに何も言わず、消えたくない』 『だから、ちょっとだけ頑張ってみました。負けないで、二人とも』 黒い太陽を押し留めながら、二人はそう言ったわ。よく見れば、その姿は ノイズが走ったり半透明だったりで……普通の状態じゃないのは明らか。 そう……彼女らも“誇りと想い”を持っているからこそ、行動したのよ! でも、そんな意志が産み出した僅かな抵抗さえも……“悪夢”には無力。 『ォォ──────!!!』 『え!?圧力が、高まって……ッ!』 『これ以上は、抑えきれない……!!』 掻き消えた。必死にアタシ達を護ろうと、“悪夢”から抜け出してくれた 二人のお姉ちゃんが、僅かに抗っていた力が。粉々に吹き飛び、消えた。 ボロ屑の様に吹き飛ばされ、そして……灰色の虚空に、融けていったの。 「あ、ぁっ……!!?」 『イヤァァァァァァァァアアアァァッ!!!!?』 ──────そんなの、ないわよ……! 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1135.html
成長、戦乙女を護る騎士(前半) 新たなる力“アルファル”を与えてから数日。私の“妹”たる神姫達は、 模擬戦のみならず普段の手伝いにまで、騎士を動員する事が多くなった。 マスターの“クセ”を学習して成長する以上、確かにこれはいい選択だ。 私・槇野晶もそれを容認し、微笑ましく見ている。今日も……の様だな。 ちょっとした用事から帰ってきた私は、その様子を暫し眺める事とする。 「その湯飲み持ってくださいですの、フィオナ~♪んしょ、んしょ……」 『Yes,sir(重いですが、やります)』 「あれ……も、モリアン?三月分のレシートはこれで全部なんですか?」 『Negative(他にもありますよ)』 「……ん、それ位で拭き掃除は十分なんだよアルサス。指令は以上かな」 『Ja(お疲れ様でした)』 ん?『受け答えしているではないか』だと?有無、妹達が少し寂しいと 言うのでな、YES/NOだけは発声出来る様にした。本来必要ないのだが、 そういう『一見無駄な所にも拘る』のが、今回のコンセプトなのでな。 無駄といえば、“アルファル”の躯そのものもそうだ。本来は戦闘用に フレームが最適化されており、日々の雑務をやらせるには向かぬのだ。 「どうだ。新しいお前達の手足、考えの通り動く様になってきたのか?」 「あ、マイスター帰ってらしたんですか?ええ、随分馴染んできました」 「そうか。ならイベントでの稼ぎを全て注ぎ込んで、作った甲斐がある」 「マイスターの感性で作られた、神姫用のサポートオートマトンだもん」 「最初は“接合”する感覚に戸惑いましたけど、今はもう平気ですの♪」 だが、その何気ない挙動を覚えさせる事こそが彼女らの発展に繋がる。 本来のぷちマスィーンズも、主との連携が最初から完璧な訳ではない。 いくら私が“偏執狂”じみた拘りと芸術品の如き精緻を折り込んでも、 それを扱いこなす神姫達が能力を引き出せねば、足手まといなだけだ。 フリルの様な彫金を施した装甲の騎士を眺め、“妹”達の活躍を想う。 「……マイスター?突然でれーってにやけちゃって、変なんだよ?」 「む!?す、すまん。お前達が何処まで、引き出せているかとなっ」 「この子たち、ですか?ここ数日の特訓で、随分こなれてきました」 「あっ!お仕事も終わりましたし、マイスターに見せてみますの?」 「ボクは賛成だよ。試合も来週に迫ってるし、成果が欲しいもんね」 「あ、あたしもやりますっ!マイスター、そう言う訳ですから……」 「模擬戦がしたい、という事か?よし分かった、今すぐ準備しよう」 懇願する“妹”達の笑顔を見て、多少の自信がついたと窺える。ならば 見せてもらおうと、彼女らを抱きかかえてトレーニングマシンを起動。 その間に“アルファル”は、元のケースに入って自らその蓋を閉じた。 私はそのケースを、サイドボードに装填していく。これがキモなのだ。 このケースごとサイドボードに収める事で、スマートに準備が出来る! 耳のピアスを確認した“シルフィード”姿の三姉妹も、ポッドに入る。 「よし、準備は整った。ネイキッド三体とぷちを……368機出そうか」 「いくらでも大丈夫ですの~♪皆、マイスターを驚かせてあげますの!」 「はい!“アルファルの戦い”が、確立してきたんですよマイスター?」 「……元は全く同じ超AIと機体構造。それをどう活かすか、なんだよ」 「見せてもらおうか、どう活かしてくるのかをな。では……往くぞッ!」 バトルフィールドの設定を入力し、ゴーサインを出す。舞台設定は街だ。 ビルや店舗が幾つか立ち並ぶ物の、幅広い道路があり広さも感じさせる。 デフォルトとも言える、典型的な地形。そこを、無数の敵が埋め尽くす。 そう、最初から皆は囲まれているのだ。しかも個々に分断された形でな。 「さて、と。まずはロッテか……見せてみろ、フィオナとの連携をな!」 「はいですの♪じゃあ、早速呼んでみますの……“フィオナ”ッ!」 『Yes,sir(支援します)』 まずはロッテの様子を見る事にする。彼女は、ネイキッドに率いられた 無数のぷちに狙われていた。ライナストを抜いてはいるが、ダメージの 蓄積は避けられない……そんな状況に飛び込んできた、無数の光弾ッ! 飛びかかろうとしたぷちが数機、地面へと無情に叩き落とされていく。 『Gyaaaaaaaaaaaaaaa!?』 「ふぅ……ナイスアシスト、ですのっ!!」 『ギィッ!?』 仮想敵の全員が上空に気を取られると、そこにはガトリングを展開した 円盤の姿があった。騎士・フィオナの“クルーザー・フィギュア”だ。 フィオナの援護射撃を受けて、ロッテはそのまま目の前のネイキッドに タックルをかまし、一撃必殺を計る。ライナストを突き刺して……ッ! 「“砕け”、ライナストッ!!」 『ギァァァァァァァー!?!』 『Grrrrrrry!?』 ネイキッドの体内で雷を解き放つ。内から焼き尽くされた敵は、そのまま ロッテに放り棄てられ、地面に転がる。致命傷ではないが、スタン効果で 立ち上がれない様だ。そのフォローをせんとぷちが動こうとした。だが! 「フィオナ、このまま突破しますの。露払いをッ!」 『Yes,sir(お任せ下さい)』 『Ahhhhh!?』 「ほう。“ソニック・ブランド”に目を付けたか」 「使えるモノは何でも使う!それがコンセプトだと思いましたの♪」 滑空してきたUFOが群がるぷちの中に突入、そのまま蹴散らしていく。 大気を用いた“斬る”防御システムを、“ソニック・ブランド”と言う。 本来は装甲強度の低い“アルファル”を実体弾から保護する為にあるが、 私の努力も虚しく、『装甲は堅く回避も得意』という反則的なスペックは 得られなかった……そう、この騎士は“絶大な一撃”に対して弱いのだ。 可変パターンは幾つか有るが、瞬間防御力には常に限界が付きまとった。 「ぷちの一撃ならば多少は耐えると踏んだか、だが過信するなよ?」 「分かってますの♪ほらほら、邪魔しないで下さいですのっ!!」 『Shagyaaaaaaaaaaaaaaaa!?!』 だがロッテは的確なダメージ量を見切って、騎士を“盾”にしている。 “W.I.N.K.”の副作用により、“アルファル”の傷は己の痛みとなる。 それが分かってきたのか、避けるべき時は避けさせ一方で大胆に使う。 そして自らも手にした魔剣でぷちを華麗に切り払って、突破していく。 その姿に、白兵戦が不得意な天使型神姫の戦い方を見る事は出来ない。 ロッテもリーダーとして日々成長している、という事だろうな。有無。 『Grrrrrrrrrrrraaaaaaaaaaaa!!!!!!』 「フィオナ、このままぷちとネイキッドを引きつけますの♪」 『Yes,sir(頑張りましょう)』 ──────戦う貴方も、素敵だよ。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/970.html
前へ 先頭ページへ 朝。 朝が来た。 マスター風に言うならば清々しい朝。もしくは、爽やかな朝。 とにかく、私は内蔵された自動起動機能によって目を覚ました。 起きたからにはやる事がある。 ベッドであるクレイドルから上体を起こしての状況確認。 玄関―――朝刊が届いているのを確認、鍵もチェーンもかかったまま。異常無し 窓―――カーテンの隙間から天気を確認。予報通り快晴。鍵も閉まっている。異常無し。 ちゃぶ台―――マスターの財布を確認。休止前との異常は検出されず。異常無し。 ベッド―――マスターが眠っている、今のところ異常無し。 時刻―――現時刻、午前7時30分。講義開始が午前9時30分。マスターの行動予想。このまま起こさない場合の起床時間、9時。 行動、開始。 私はぴょいん、とクレイドルから飛び降りる。クレイドルはマスターのベッドの枕元に置いてあり、飛び降りた先はマスターの顔の直ぐそばだ。 何時もは気難しげな表情をしているが、この時だけはいつも穏やかだ。まるで死んでるみたい。 ……心なしかマスターに睨まれた気がする。次は潰されそうだから本来の仕事に移るとしよう。 ベッドの隅に立てかけられた30cmの鋼尺、それを両手で抱えるように持つ。 人間からしたらそれ程でもない重量だろうが、神姫である私からしたら結構な重量を感じるそれを、肩に担ぐように構える。 そして、腰を軸に上体を回転させる。 「―――ッ!」 ばこん、という音と共にマスターが飛び起きた。 頭を押さえて涙目でこちらを見ている。 その視線を受けながら、私はこう言うのだ。 「おはようございます、マスター。今日も良い天気ですよ」 それが私の日課。 武装神姫、ナルの一日の始まりなのだ。 今日も今日とて大学へ向かうマスター。 そしてマスターの胸ポケットの中に納まる私。 マスターが一歩歩くごとに身体が数cm程上下する。 これが人間換算だった場合、人は酷く酔ってしまうと聞いた事がある。 全てを人間に準じて作られた私がそうならないのは機械的に制御が成されているからか、それとも個体差なのだろうか。 そんな事を考えていると、空が翳った。 「……ハトか。珍しい」 マスターが呟いた。 人には聞こえそうもない小さな呟き。しかし、私の耳はそれを捉えた。 それは私の聴覚が人間よりも優れているという点もあるが、マスターの身体から声の震動が伝わったというのもある。 「このご時世、こんなところで鳩を見れるとは思いませんでした」 私は率直な感想を言った。 私に内蔵されている基本データの鳩に関する項には2036年現在、鳩の生息数が激減しており、絶滅危惧種一歩手前であると記されている。 そして、日本で野生の鳩が生息しているのは浅草だけだとも記されている。 ここは浅草から少し距離がある。飼われた鳩にしろ野生にしろ、少々貴重な体験だと言えた。 「餓鬼の頃はそこそこ見かけたんだがなぁ」 そう言うと、マスターは空を仰いだ。 その表情を窺い知ることは出来ないが、きっと私の知らない遠くを見ているのだろう。 私がマスターと出会ってもう5年になる。 この5年間、色々な事があった。 だけど、まだ私はマスターの全てを知っている訳ではない。 マスターが見たもの、マスターが感じたもの、マスターが知ったもの。 私が知らない、マスターの要素。 マスターという人間を構成するピース。 それを、私も共有する事が出来るのだろうか。 「……暇があったら実家にハト探しに行くか」 さっきよりも小さな声、だけど、はっきりとした声でマスターが言った。 その視線は真っ直ぐ前を向いている。 だけど、私にはその先にあるものがわかる気がした。 「楽しみです」 大学は、目と鼻の先だった。 今日の講義は一限から五眼までフルに入っている。 一限目は工業数学。マスターが最も苦手とする教科で、マスターは今にも死にそうな顔をしている。 私はというと、教室の机の上にぺたりと座り、周囲を伺っている。 この教室はそれほど広くは無く、人と人が接触しやすい。周囲を見れば3,4人のグループで固まってるのが殆どで、一人で難しそうな顔をしているマスターは少し浮いている。 元々人づき合いが良い方では無いので、大学内の友人は研究室の方くらいしか見た事が無い。 他愛無い雑談のざわめきの中、マスターは一人教科書を睨んでいる。 少しでも頭に入れておかないと刺されたときマズイそうだ。 暫くして、教授が現れた。その瞬間に水を打った様に静まり返る様は何時見ても面白い。 講義が始まった。 教授は説明を交えながら黒板にチョークを滑らせている。生徒はと言えば、黒板の例題や問題を写し、それを解く為に頭を絞っている。 無論、マスターもその一人だ。 シャーペンをくるくる回しながら、左手で頬杖をしている。その眼はノートに突き刺さっており、とても鋭く、険しい。 暫く微動だにしなかったマスターだが、目だけが動いた。 その先にいるのは、私だ。マスターの言わんとする事は手に取るように分かる。 確かに私は機械の類だ。計算は得意中の得意。朝飯前だ。 しかし、だ。 「マスター、こういうのは自力でやらねば意味がありませんよ?」 マスターは苦虫を噛み潰した様な表情をし、再びノートを睨んだ。 何事も経験ですよ、マスター。 講義を終えたマスターは随分と憔悴している様に見える。 覇気が無いというか、精気が無いというか。とにかく元気がない。 マスターの胸ポケットの中で揺られながら私はそう思った。 しかし、それも仕方ないのかもしれない。 その理由は次の講義がマスターの苦手科目No.2、文章演習だからだろう。 この講義、平たく言えば作文の講義なのだが、マスターは文字を書くとか本を読むとかそういう類の事が大の苦手なのだ。 レポートにおいてもそれは健在で、毎回必ず再提出の烙印を押されている。 そういう訳でマスターはこの講義が苦手という訳だ。 重々しい足取りで教室移動をするマスターは、さながら亡者だ。 瞬間、身体に衝撃が走った。突然の事だが、頭は冷静に動いている。 とりあえず、私の身体は空中にある。身体は一回転していて、頭から真っ逆様に落ちる格好だ。 とりあえず状況を確認すると、マスターが尻餅をついていて、その上に人が覆いかぶさっている。 マスターは後頭部を押さえていて、覆いかぶさってる人間はぐったりとしているのが上下逆さまに見える。 「…わわっ、大丈夫ですか~!」 何ともマヌケな声が聞こえてきた。 その声の主はマスターに覆いかぶっている人間だ。 「いいから、どいてくれ」 マスターが不機嫌そうに言った。それを聞いたその人はあたふたしながらやたら危なっかしくマスターの上からどいた。 それは女の人だった。 そして、床と私の距離はもう無い。ぶつかる。 何時もなら直ぐに体制を立て直す事が出来るのに、反応が遅れた。どうしよう、とか思ってたら、 「……ゎっ」 思わず変な声が出た。それは身体に慣性の力が働いた事による反作用だ。 視界は未だ上下逆転したままだ。前髪が床についている 足首を見ると、誰かに掴まれている。 白い手、白い腕、白い身体、白い髪。 「……ストラーフ?」 思わず疑問が口に出た。だって、そこにいたのは白い神姫。 白い神姫と言えばアーンヴァルな訳だけど、その顔はどう見たって私と同じ顔。ストラーフなのだから。 しかし、このストラーフ無表情である。目が合っているのにあちらさんは瞬き一つしないで私をじっと見ているのだ。 なんて事考えていたら、彼女は唐突に私の足首から手を放した。 手を付いて一瞬逆立ちの体勢、今度は身体全体を使ってくるっと周る。よし、上下正常な世界だ。 私は改めてストラーフを見た。私は量産機なので私と同じ顔を見るのは少なくない。その中には様々なカラーバリエーションのストラーフがいたが、ここまでまっ白いストラーフは初めて見た。 「わ、私ぼー、としてて、その、あの……」 頭上からマヌケな声が降ってくる。その声の主はマスターに対し平謝りだ。 「……今度から気を付けてくれ」 マスターはバツが悪そうに言うと、私を拾い上げた。 「大丈夫か?」 「あのストラーフのお陰で」 私はマスターの手の中、視線をあのストラーフへと向けた。 そのストラーフはマヌケな女の人に抱きかかえられている。 マスターの逡巡する気配が漂った。 「……名前を聞いても良いかな?」 その視線はマヌケな女に人に向けられている。 当の本人は、一瞬ポカーンとした後、金魚みたいに口をパクパクさせている。 かと思えば大きく深呼吸をし始めた。3度深呼吸をした彼女はようやく口を開いた。 「えと、その、わた……私、環境心理学科の、君島、です」 まるで息も絶え絶え、死にそうな様子で君島さんとやらは言った。 「それで、この子は、アリスって、言います」 そういって胸に抱える白いストラーフ、アリスを一瞥した。 しかし、このアリスとやら、マスターである君島さんと違い本当に無表情だ。 「僕は倉内 恵太郎。君島さんと同じ環境心理科です」 マスター自慢の猫被りが発動した。さっきまでの不機嫌ぷりは何処へやら、今は完璧な爽やか系好青年だ。 「この子はナル」 「どうも」 私は軽く会釈した。 「アリスちゃん、僕のナルを助けてくれてありがとう」 マスターの言葉を無表情で受け止めるアリス。それに対して君島さんはやたらおどおどしている。ここまで来ると面白い。 「……いい」 アリスがようやく口を開いた。にしても驚くほど無機質な反応だ。……CSC入ってないんじゃないだろうか。 その時である、場違いな声が響いたのは。 「おはよう! けーくん!」 どっから顕れたのか、孝也さんがマスター目掛けて飛び付いてきた。 「おはよう……っと!」 そしてマスターは孝也さんの顔面に右フックを叩き込んだ。 孝也さんは派手な音と「ぐべぇ」みたいな呻き声を上げてゴミ箱に突っ込んじゃった。 「ふぇ?…え? え?」 案の定、君島さんが目を白黒させている。 「ああ、いつもの事ですよ」 マスターは相も変わらず爽やかを装っている。 「そう、僕とけーくんのスキンシップは何時でも過激なんだ……」 何時の間にやら孝也さんがマスターの傍らに寄り添っている。相変わらず復活が早い。 「そ、そう、なんですか」 駄目だ、完全に怯えている。 「マスター」 「……じゃあ、次の講義がありますんで僕はこれで」 私の言わんとする事が伝わったようだ。 マスターは孝也さんの首を鷲掴むと、笑顔で歩き始めた。 「ところでけーくん、今の人は? ……けーくん、首が痛いよ~。……けーくん、絞まってる! 何か凄い締まってるよ!? 何! 僕が何かした!? 嫌だ! 離して! 話せば解る!……アーーーッ!」 残された君島は暫し茫然としていた。 まるで嵐のような出来事に頭の処理が着いて行っていないのだ。 「……ましろ」 「ふゃいっ!?」 普段は全くの無口&無表情なアリスが君島を、君島ましろの名を呼んだ。 その事に君島は飛び上るほど驚いた。自分の神姫なのに。 「……紅」 一言。言葉ではなく単語。 アリスのその短い説明でも、君島はすぐに理解出来た。 「あ、あの人が、そう、なの?」 口調は変わらない。しかし、その目の鋭さは先ほどまでの少女とは到底思えない鋭さだ。 その鋭い視線を恵太郎が去って行った方向へと投げかける。 見えない何かを見るように、見えない何かを値踏みするように。 「じ、じゃあ、やっつけなきゃ、あの人」 まるで近くのコンビニに買い物に行くような気軽さ。 反して、命を賭けた血戦に赴くような切迫さ。 奇妙で歪んだその少女の名は君島ましろ。 ましろを知る人間は彼女をこう呼ぶ。 白の女王、と。 先頭ページへ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1656.html
あらすじ 普通の高校生神姫マスター、百合川 桐葉と悪魔型の翡翠の織りなす熱血バトルストーリー? 著/リンのマスター あらすじ"J dreamer"登場キャラクター設定 J dreamer 登場キャラクター設定 dream 00 紅の戦乙女 TOPへ - 昨日 - 今日 - 合計 コメントフォーム(感想、ご意見等あればどうぞ。) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/tenshoshinkis/pages/20.html
メンバー所在地マップ メンバー加入履歴 メンバー脱退履歴 同盟レベル 9 現同盟員/最大同盟員 31/82 2010/10/14現在(敬称略・順不同) seq プレイヤー名 同盟役職 本拠所在地 1 夏姫 盟主 92,149 2 射命丸 157,153 3 テチ~ 193,117 4 ラフマニノフ♪ 106,221 5 ポロロン 外交官 104,147 6 アキト 大督 41,276 7 ナムノエル 145,108 8 アルカナ 軍師 197,127 9 浪花の寅さん 75,264 10 グデーリアン 93,215 11 ダンチ 65,167 12 およよ♪ 85,213 13 ラコステ 86,250 14 snapper 87,141 15 隼正 112,251 16 alex 91,138 17 我道流MkⅡ 285,77 18 サングリーン 102,223 19 円高円安 279,61 20 刃 -111,56 21 津田恒美 89,255 22 ヒロッチ★ 143,253 23 森のベアーズ 150,254 24 yana777 100,150 25 ranndamu 182,149 26 天♪ 242,-144 27 き 29,157 28 洲亭部 121,365 29 チョコ7 -165,341 30 白発中 396,62 31 夜氾 補佐 28,152 △ 【メンバー加入履歴】2010/08/31~ 加入日 メンバー名 2010/10/03 洲亭部 2010/10/11 チョコ7 2010/10/13 白発中 △ 【メンバー脱退履歴】 2010/08/31~ 脱退日 メンバー名 状況 2010/--/-- ネルネ -- 2010/--/-- Interlink -- 2010/--/-- AC -- 2010/--/-- ぶらっと -- △
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1511.html
主の無き華と、新しき風(後半) 私は、アルマ・ロッテとクララに強請られて新作を着せてやる事とした。 尤も“菫色”だけは、そのまま手を付けぬ。誰に着せるべきか、結局私は 判断が付かなかったのだ。いずれ打開策が見いだせたら……とは思うが、 それよりも今は目の前の着替えだ。こう、なんというかドキドキしてな? 「ん……ニーソックスとブーツまで、ちゃんと細かく出来てますの~♪」 「そ、そうか?お前達の“硬質の肌”を侵さぬ様に、質感を厳選したが」 「大丈夫です、よマイスター!これ、引っかからないし快適ですっ!!」 「な、ならいいのだがな!?……う、うぅ。ほれ、ブラウスだぞクララ」 「よいしょ……マイスター、何故か顔赤いけど風邪でも引いたのかな?」 「う゛!?そ、そんな事はないッ!至って健康だぞ私は!!……多分っ」 実は“告白”以後、私が手ずから服飾を着させるのはこれが初めてだ。 ジャケットやスカートの類に始まって、“フィオラ”で培った神姫用の アンダーウェアまでも完備したトータルコーディネイト仕様のそれは、 神姫にとってもなかなか手間の掛かるお洒落となっていた。だがしかし それだけに、こう……彼女らが着替える姿はとても眩しく見えたのだ。 け、決して疚しい心がある訳ではないぞ!無いったら無いのだッ!!? 「……マイスター、マイスター。もう皆着替え終わったんだよ、ほらっ」 「はえ?!そ、そうか……ついつい夢中になってしまったな。どうだ?」 「とても軽くって、動きやすいですの~☆ほらっ、くるっと一回転ッ♪」 「うわ……こ、こほんっ!スカートが上手くパニエで膨らんでいるな!」 「帽子も被りやすくていいですよ♪戦闘には少々辛いですけど……うん」 そう。今回は割と、戦闘より日常を意識した設計となっている。一応は 防御能力もあるのだが、戦闘に役立つ程の動きやすさや耐久性は無い。 私の心情が反映されているのかもしれんが、今回はそういう服なのだ。 「テーマは『春の虹』だ。橙と藍、黄色のワンポイントがあるだろうっ」 「あ、飾りの色が確かにそうなってますの!“紫”にも、ありますの?」 「藍色メインでな。橙と黄のブローチも作ったから、全色揃う事になる」 紫を暗めの色とはせず、藍色はワンポイントに。あくまでも全パターン、 『明るい春の装い』という意識で配色している。華やぐ春の日に似合う、 可憐な服を着せてあげたい。そういう想いが、やはり私の胸にあるのだ。 「ともあれ、色調以外はその形式で作ろうと考えているが……どうだ?」 「問題ないですの、マイスターとお揃いで歩くのが楽しみですの~っ♪」 「そうですねぇ、皆でコレを着て春の公園とかでお散歩するんです……」 「……アルマお姉ちゃん、微妙に不吉な言い回しって気がするんだよ?」 バツが悪そうなアルマを撫でて、私はココアを用意する為に席を立った。 温かそうな湯気と香ばしい匂いが、五感を刺激する。四人前の飲み物は、 冬の冷たさと“新しい風”の予感に震える私達を、癒してくれそうだな。 「まぁとりあえず、これでも呑むとしようか。お前達も冷えるだろう?」 「あ、いただきます……わぁ、甘くて美味しそうなココアですね……♪」 「ん……んく、んく……美味しいんだよ。なんだか、気持ちが解れそう」 「春になったら、また違う味だと思いますの♪そういう予感がしますし」 「どういう予感だ、ロッテや?口振りからすると、色々ありそうだが?」 私の疑問に、ロッテは唇へと指を当てて考え始める。恐らくは、自分でも 明確な認識になっていない、でも確実に感じている“何か”なのだろう。 カップを躯全体で抱えていた一人の神姫は、徐にその“感触”を述べた。 「よくわからないんですけど……何かがあるって、確信していますの♪」 「“確信”か……私も何かを感じている、それが何かは分からぬのだが」 私が感じていたのは『“告白”を乗り越えた先にある何か』なのだがな。 しかし、私達はそれを掴みかけていた……何かが起きる、という確証を。 「……ボクも、この先に何かあるって気はしてるんだよ。多分大事な事」 「ですね……でも、それを畏れてたら何処にも行けなくなっちゃいます」 「全くだ、なるようにしかならん。私も、踏み出さないとな……あちッ」 ココアの温かさが、舌を刺す様な熱さにも感じられて、私は少々驚いた。 それを見て、三姉妹達はクスクスと笑い出す……よほど滑稽だったのか? しかし先程のカップル共とは違い、彼女らに笑われるのは悪くなかった。 「全く、笑う物でないぞ。しかし、お前達と居るのは本当に心地が良い」 「……あたしもです。マイスターや皆と一緒にいると、満たされますね」 「ぽっかりと欠けてた“何か”が埋まる様な……そんな感覚だよ、うん」 「それならもっともっと、皆の暖かい心で皆を満たしていきますの~♪」 ──────私の心も満たしてくれる貴女達、春の様な暖かさだね。 次に進む/メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1107.html
戻る 先頭ページへ 「あははぁ」 チーグルで握るロケットハンマー、それを右から真横に薙ぐ。 右足を大きく踏み込ませ、腰を軸に、脇を絞めて小さく薙ぐ。 その過程にある空気を叩き壊しながら、それはヴォッフェバニーの頭部を捉えた。 ばこん、いう音と共にヴォッフェバニーの身体が軽々と吹き飛び、電子の泡へと帰した。 「ははん」 降りぬいたロケットハンマーの勢いと共に右へ向き直り、そのままで大きく跳ぶ。 その直後、無数の破裂音が響いた。今までカーネリアンがいた場所に無数の弾丸が突き刺さる音だ。 「ふふぅん」 それを横目で眺めながら、右手に持つギロチンブーメランの切っ先を真後ろに突き出す。 そこに飛び込んできたマオチャオは勢いを殺す事が出来ず、喉元を貫かれた。 右手を勢い良く振り上げる。マオチャオの喉からギロチンブーメランが外れると同時に着地。 すぐに身体を屈める。すると、頭の真上をサイフォスの槍の一突きが通り過ぎた。 「あはぁ」 起き上がる代わりに、身体を大きく反らせ、両足を蹴り上げる。 丁度、バク転の形でサバーカの爪先をサイフォスの顎に滑り込ませた。 消えるサイフォスを見もせず、空中で上下反転したままの体勢で両手に持つギロチンブーメランを連結。背中に備える4基のエクステンドブースターを吹かしながら、投擲する。 ひゅん、という音と共にギロチンブーメランはツガルに向かう。が、ツガルはそれをジャンプする事で回避する。しかし、 「はっはーん」 ツガルの目の前、そこには身体を大きく反らせてロケットハンマーを大上段に構えたカーネリアンがいた。 ブースト。 ロケットハンマー打突部後部にあるブースターと、背中のエクステンドブースターが火を噴いた。 大きく反らせた身体に、激烈な加速を乗せる。 全ての推進力を一点に集中させる。 重心をロケットハンマーに移し、全体重をそれにかける。 最早音はしない。 あるのは壮絶な破壊の爪痕。 ツガルの身体は、文字通り粉砕された。 「師匠、どうしたんだろ……」 アリカは誰に言うでもなく呟いた。 「……恵太郎さんにしか、それはわかりません」 トロンベはアリカの頭の上で、少し気まずそうに言った。 普段なら喧騒に満ちるこの研究室にいるのは裕也とアリカ、そして蒼蓮華とトロンベだけだ。 ただそれだけ、それだけな筈なのにまるで隙間風が吹き込む様な肌寒さを感じている。 研究室のメンバー、そのうち一人がいないだけ、たったそれだけの事で。 恵太郎。恵太郎は何時も研究室にいる訳じゃない。むしろ、どちらかといえばいないの時の方が多い。それなのに、研究室はこんなにも薄ら寒い。 「……それでは、優勝した倉内さんにお話を聞いてみましょう」 少々古い型の液晶テレビからにこやかに喋るアナウンサーの声が研究室に響いた。職業柄、半ば強要されているその笑顔は酷く薄っぺらい。 研究室の雰囲気にとてもそぐわないそれは、酷く滑稽で笑えもしない。 最も、一番滑稽なのはそこに映っている人物の事なのだが。 「……今回の結果は僕自身の力でなく、彼女の力によるものだと思っています。ですので、インタビューでしたら彼女の方が適任です」 そこに映る恵太郎は、マイクを向けられても眉ひとつ動かさず平然とインタビューを受けている。 彼を良く知る人物なら見慣れた猫被り。しかし、見慣れた人間程その光景に違和感を感じる。 第一、恵太郎は極力目立ちたがらない性格なのだ。大会で優勝した場合も表彰を辞退する事が多い。それなのに、この恵太郎は平然とカメラの前でインタビューを受けている。 そして、これは彼の古い友人にしか分らない違和感。恵太郎の肩に乗るストラーフ型の神姫、ナル。彼女は何時もと同じ白い髪に赤い瞳を輝かせている。その違和感の正体、それは。 「……では倉内さんの神姫であるカーネリアンに……」 カーネリアン。 過去に置いて来た筈の名前。 過去に封じている筈の名前。 何故それを、その名で呼ぶのか。恵太郎は一体何を考えているのか。 裕也は、あの時の出来事を反芻しながら、恵太郎の行動の原因を考えていた。 しかし裕也は元来、考え事が得意な方では無い。いくら考えた処で原因になりそうなもの、恵太郎が何を考えているのか、全く見当が付いていなかった。 それでも、一つだけはっきりしている事がある。 それは恵太郎を慕う少女が落ち込んでいるという事だ。 普段は元気良く、夏の太陽の様に明るい筈の少女を見ながら、裕也は少ない語彙から言葉を弾きだした。 「……恵太郎は、きっと何か考えてんだ」 結局、良く分からない事を言ってしまう。裕也は己の不甲斐無さを恨んだ。 しかし、恨んだだけでは何も出来はしない。それでも、何か言葉をかけずにはいられなかった。 「あいつとはもう5年も付き合ってんだ……だから、元気出せよ」 アリカはその言葉に、一瞬頭を上げた。しかし「……はい」とだけ言うと直ぐに項垂れてしまった。 裕也はこんな時、姉がいればと思った。思慮深い姉ならばアリカを優しく励まして癒す事が出来るだろう。 それが出来ない自分が、恨めしい。 その時、グリーンとオレンジ色をした物体が動いた。 「アリカにゃん、元気出すのだ」 蒼蓮華はぴょいん、とアリカの目の前に降り立つとアリカを見上げてそう言った。 「……蒼蓮華」 蒼蓮華はにこり、と笑うとアリカの肩の上に飛び乗った。 「笑うのだ」 「え?」 満面の笑みを浮かべながら蒼蓮華は言った。 「辛い時こそ笑うのだ。裕子が言ってたのだ。そうすれば、何とかなるのだ~」 アリカは数瞬、にぃ~と笑う蒼蓮華に見惚れていた。 「うん……ありがとう」 そう言うと、アリカは軽く笑った。心の底から笑える状態でないにしろ、それは多少なりとも効果はあるものだ。 「さ、トロンベにゃんも」 アリカの肩から頭の上に到達した蒼蓮華は、今度はトロンベに掴みかかった。 そしてトロンベの頬っぺたを摘むと、左右に引っ張った。 「にぃ~~~」 「しょ、しょうりぇんか!」 突然の事態にトロンベは混乱し、蒼蓮華から逃げるようにアリカの頭の上でごろごろ転げまわった。 「いた、いたたた!」 アリカは心から笑っていた。 頭の上でじゃれ合う神姫達を落ちないように手で支えながら、時々走る軽い痛みに顔を嬉しそうに歪めながら、笑った。 裕也はその光景を見ながら、蒼蓮華に心の中で礼を言った。 それと同時に一つの決意をした。 この恵太郎を慕う少女に、部外者である少女に。 あの出来事を話す。そう決めた。 暗い、どこまでも暗くて無機質で只広い場所。 光源は、遠くの壁にある小さな窓から差し込む夕日だけ。脚元は愚か一寸先まで夕闇に包まれている。 至る所から聞こえてくる低く、唸るような機械音。普段なら気に止まらないそれも、この時だけは不気味に感じてしまうのは視覚が殆ど利かないこの状況で、その他の感覚が鋭敏化しているからだろうか。 人は五感の内、一つを失うとそれの分を他の感覚が発達するという。 今のように、視覚が使えない状態だと聴覚や触覚・嗅覚・味覚が普段より鋭敏になる。 機械の音、油の匂い、もたれている身体の感覚、口の中に広がる自分の味。 そして、思考力。 人は感覚ではなく、生活に置いても失われた分を他のもので補おうとするのではないだろうか。 例えば、私生活に満足出来なくて仕事でそれを埋める人。 これは別に仕事でなくても良い。料理でも、運動でも、勉強でも、ゲームでも、遊びでも、神姫でも。 抑圧された能力は、他の能力を伸ばす。 恵太郎は、まさにそれだった。 「裕子先輩、探しましたよ」 音を立てずに、ゆったりと歩きながら恵太郎が口を開いた。 「研究室に顔を出すのも気が引けるんで、骨でしたよ」 目を瞑ると変な事を考えてしまうのは昔からの癖だ。いつか直さなくてはいけない。 恵太郎はそんな心中を察する事無く、微笑みながら話を続ける。 「先輩が、まさかこんなとこにいるなんて夢にも思いませんでしたよ?」 裕子まで数メートル、というところで恵太郎は足を止めた。 その様子を見ながら、ようやく実感が湧いてくるのを裕子は感じていた。 「……一週間、何の連絡も無いなんて酷いのね」 自然と、言葉が出てきた。そして思ったよりも冷静な自分に裕子は内心驚いていた。 「ええ、やらなくちゃいけない事がありますから」 使命に燃える好青年。今の恵太郎の姿は、まさにそれだ。 しかし、ものを燃やすには燃料と火元がいる。その心の内で燃やすものは果たして何なのか。 「それは悪い事かしら?」 少し、悪戯ぽく言ってみた。何時もの恵太郎は、果たしてどんな反応で返していただろうか。 「さあ、どうでしょうね」 恵太郎もまた、悪戯ぽく笑って返した。 この子は、恵太郎は本当に変わった。 成長したといっても良いだろう。 初めて会った時は、まるで世の中全てを憎んでいるような、そんな嫌な空気を漂わせていたというのに。 人は、5年でこうも変わるものなのだろうか。 「ここ、明かりがついてないだけでこうも印象が変わるんですね」 そんな他愛無い会話をするなんて、あの頃からはとても想像できなかった。 何が彼を凶行に駆り立て、何が彼を変えたのか、そして、自分に何が出来るのか。 「要素一つで、物事は驚くくらい変わるモノよ。勿論、人間もね」 何故私は、この偶然出会った友人の事をここまで気にかけるのだろうか。 好きとは違う。母性本能でも無い。では何か? 「確かに、ここに裕子先輩がいるだけで、随分雰囲気が違いますしね」 もしかしたら、私はそれを見つける為にここに来たのかもしれない。 「先輩、ここに……バトルセンターに来るのは何回目ですか?」 闇を払う様な、鮮烈な光が其処を照らした。 リアルバトルセンター。 大きな体育館程ある面積の中に、6台の巨大なリアルバトルマシンが設置されているその場所。 恵太郎と裕子は、6台あるマシンの中、丁度中央に座すマシンを挟み、相対していた。 「確かに、両手の指で数えられるくらいね」 裕子はバトルが余り好きでは無い。 それは研究室のメンバーにも広く知れ渡っており、裕子自身もそれを深く自覚している。 ここは、その余り好きでないバトルをやるための施設。 「じゃあ、何でここに?」 急激に変化した明度に、戸惑う事も無く恵太郎は言った。 対する裕子は長い間、暗い空間にいたせいで軽く目を細めている。 そのせいではっきりと確認できない恵太郎の姿を見ながら、裕子は言った。 「可愛い後輩が、どれだけ成長したか確かめたくなった……じゃあダメかしら?」 裕子の言葉に、恵太郎は楽しげに笑った。 その笑顔は酷く歪んだ笑みだった。 「そうですね……それも、面白そうです」 先頭ページへ 進む
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1512.html
大切な人に──あるいは粉雪の聖夜 時は2037年のクリスマス・イヴ。温暖化が進んだ東京に、ようやっと 今シーズン初の粉雪がちらつき始めた日の事。私は一人、春に向けた 新作“Electro Lolita”の試作材料を補充する為、渋谷に来ていた。 当然だが、周りはカップルだらけである。居心地の悪さは拭えぬな。 「ふぅ……材料も揃ったし資料も集めた、今日は早めに帰るとするか」 ふと隣を見て、そして私・槇野晶は自嘲する。今日は、神姫が居ない。 無論、私は誰か連れてこようかと声を掛けたぞ。しかし、ダメだった。 『ロッテや、渋谷にでも出ぬか。少々買い物をしようと思うのだがな』 『え、えと……ごめんなさいですの、仕入れ先の人がこの後来るって』 『むむ、では店番を任せるぞ。アルマや、お前は……って“茜”か?』 『はい。ちょっと夕飯の買い物をしないといけないので、HVIFを』 『むぅ……クララは“梓”としての、一応塾の期末テストだったなぁ』 そう。何故か今日に限って、致命的に皆の予定が合わぬのだ。寂しいが 無理に連れ出すなどという事は出来ぬ。締め付けられそうな“心”を、 少々隠しながら、私は一人で出てきたのだ……だが、どうも味気ない。 「やはり、大事な“妹”達がいないと……調子が狂ってしまうな、有無」 『Happy X mas!皆様、プレゼントのご用意はお済みですかぁ~っ!!?』 「む?そう言えば……ああ、用意していたな。棚の奥に仕舞っていた筈」 小うるさい街頭宣伝に、私は贈り物の在処を思い出す。となれば、急いで 帰って彼女らに渡さねばならない。色々あって正直になれていない私だが 言葉にする以外の部分で、出来る事はきっちりこなさねばならんからな! そうと決まれば……という事で、私は急ぎ渋谷駅からの山手線に乗った。 無論駅ビル地下で、クリスマスケーキを四人前買っておくのも忘れない。 「喜んでくれるとよいのだが……っと、秋葉原駅か。降りねばならんな」 『あきはばら~、あきはばらです♪』 普段通りのアナウンスを後に、雑踏に躍り出る。そこは普段通りであり その実、異様なテンションに包まれていた。そう、間もなく“聖戦”。 もう一~二日すれば、お台場に全国から猛者共が集う筈だ。そうなれば この秋葉原は、“聖地”を目指す者と帰ってきた者達でごったがえす。 彼らにはクリスマスも関係……あるとは聞くが、別腹という事だろう。 「押し潰されては敵わぬ。さっさと帰ろ……む、あれは“梓”?!」 「え?あ、マイス……じゃない。晶お姉ちゃん?どうしたのかな?」 「どうもこうも、今渋谷から帰ってきた所だが……その袋は何だ?」 「……お姉ちゃんこそ、その箱は何かな?服には見えないけど……」 気まずい……気まずすぎる。流石に、もう少し待って驚かせたいのだ。 だが、梓の方も挙動がおかしい……まさかとは思うが、あの袋は……? 「こほん、取りあえず帰らぬか。こんな所で止まっていたら流されるぞ」 「うん、それがいいかもしれないんだよ……早く戻ろう、お姉ちゃんっ」 「うわっ!?お、おい急に手を引くなっ。とと……全く、どうしたのだ」 「……だって、今日は“聖なる夜”だもん。少し位いいと思うんだよ?」 梓……否、クララの言葉に少しドキっとする。まるでそれは……嗚呼、 いやいや!意識してしまうと、頬が赤らんでしまうな。急いで私達は、 MMSショップ“ALChemist”の木製ドアを潜り、居住フロアへと降りる。 ──そこは、暗闇だった。照明が落ちていると気付くまでには、数秒。 「これは……ロッテ、アルマ。二人とも居るのか?明かりを付けるぞ!」 「まさか、これって……お姉ちゃん達も、同じ考えだったのかな……?」 梓の狼狽する声を打ち消す様に、仄かな灯りが付いた……同時に何かが、 淡く煌めきテーブルを彩る。それは、フィルムで出来た飾り付けだった。 そのテーブルに鎮座するのは……巨大な七面鳥と旨そうなサンドイッチ! 「二人ともおかえりなさいですのっ!そしてハッピークリスマースっ♪」 「遅かったですよ二人とも。折角の七面鳥が冷めちゃうじゃないですか」 「あ゛……まさか、お前達二人とも!この為にわざと断ったのかッ!?」 「相談は一切してなかった筈なんだよ。なのに、なんでこうなるのかな」 「だって“姉妹”ですもの、それ位通じ合っちゃう仲って事ですよっ♪」 「そうですの。皆、お互いを喜ばせる為に黙って準備してましたの~☆」 半ば呆然とした梓……クララが、観念した様に袋の中身を取り出す…… それは、二本のシャンパンだった。そう、彼女も……私も、結局聖夜の 食材を買い求めて、しかもピッタリ無駄なく揃ってしまったのだった。 私も、可笑しさを堪えつつケーキをテーブルに置いた。準備は万全だ! 「まぁ、結果オーライという事か。それからな、指輪を用意してあるぞ」 「指輪って、この間彫金してたアレですの!?確か、注文の品って……」 「それはジョークだ。お前達の為に、と言い出す訳には行かなくてな?」 「……なんだ、結局皆でだましっこしてたんじゃないですか。もぅっ!」 「でも、マイスターの言う通り結果オーライなんだよ……それなら、ね」 「有無。なら、かけ声を合わせたら食事と行こうじゃないか。せーの!」 『メリークリスマスッ!!!!』 ──────真心を込めて、全ての神姫に幸せがあります様に……。 メインメニューへ戻る
https://w.atwiki.jp/imaginarymonster/
@wikiへようこそ ウィキはみんなで気軽にホームページ編集できるツールです。 このページは自由に編集することができます。 メールで送られてきたパスワードを用いてログインすることで、各種変更(サイト名、トップページ、メンバー管理、サイドページ、デザイン、ページ管理、等)することができます まずはこちらをご覧ください。 @wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 無料で会員登録できるSNS内の@wiki助け合いコミュニティ @wiki更新情報 @wikiへのお問合せフォーム 等をご活用ください @wiki助け合いコミュニティの掲示板スレッド一覧 #atfb_bbs_list その他お勧めサービスについて 大容量1G、PHP/CGI、MySQL、FTPが使える無料ホームページは@PAGES 無料ブログ作成は@WORDをご利用ください 2ch型の無料掲示板は@chsをご利用ください フォーラム型の無料掲示板は@bbをご利用ください お絵かき掲示板は@paintをご利用ください その他の無料掲示板は@bbsをご利用ください 無料ソーシャルプロフィールサービス @flabo(アットフラボ) おすすめ機能 気になるニュースをチェック 関連するブログ一覧を表示 その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 @wikiプラグイン一覧 まとめサイト作成支援ツール バグや不具合を見つけたら? 要望がある場合は? お手数ですが、メールでお問い合わせください。 videoプラグインエラー 正しいURLを入力してください。 https //www.youtube.com/watch?v=EevM2VWf9fo
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1032.html
戦うことを忘れた武装神姫 その34 <<その33から。。。<< 「うにぁ~~~! くやしいのだー!!!」 わんわんと泣きじゃくるエルガと、困惑した表情を浮かべ猫じゃらしで必死にあやそうとするコリン。 「まぁ、装備の差もあるかr・・・い、いででっ!! 腕毛をむしるなって!」 「うにゃぁ~! やだやだ、にゃーも負けたくないのだー!!! にゃああぁぁ~~~!!!」 いつになくじたばたと暴れるエルガに、さすがの久遠も困り果てた。 右の腕毛をむしらせつつ、久遠は財布をとりだしてまだ装備状態のままのイオにお札を渡し一言二言。 イオはいつもの笑顔で頷くと、ふよふよと店の外へと出ていった。 「もう泣くなって。 今、イオが下にたい焼き買いに行ってくれたから。」 頭をなでながら久遠が言う。 「にゃうぅ・・・? たいやき・・・?」 「今日は特別に一匹食べていいぞ。」 その言葉に、ぱっと明るい顔に切り替わり、まだ涙の残る目で久遠を見つめた。 「いっぴき、たべてもいいの?」 「一匹ぜ~んぶ食べて、いっしょに厄も食べちゃおう。な。」 「ふぇ・・・うにゃぁん。 ありがとなの、にゃーさん!!」 「泣いた子猫が、もう笑った。 ったく、もう。」 笑顔でエルガを突付く久遠の指に、エルガもじゃれ付く。 まもなく、入り口からイオが戻ってきた。手にはコンビニの袋、中には・・・特大のたいやき。 「ふぅ、もどりました~。 はい、エルガ。」 がさがさと袋からたいやきを取り出し、渡そうとしたが・・・エルガに届かなかった。 「なんだ、やっぱり久遠たちだったんか。 どこかで見た事あるアーンヴァルだと思ったよ。」 上階の東杜田アンテナショップのエプロンをつけたCTaが間に割って入り、たいやきを取り上げていた。 今にも泣き出しそうなエルガに気づいた久遠は、ひったくるようにCTaから取り返した。 「これはエルガの。 ・・・なんだお前、こっちの勤務になったのか?」 「違うわ! 新製品の取り扱い説明に来ただけだ。 ・・・昼飯抜きで仕事してたから腹減って。 悪いけど、それ半分もらうわ。エルガなら半分で十分だろ?」 CTaはそう言うが否や、久遠が手にしたたい焼きの頭側ほぼ2/3をちぎって、あっという間に食べてしまった。 「もっふもっふ・・・ コンビニたい焼きだけど、やっぱうめー! 」 呆然とする久遠の手に、涙目のエルガがよじ登った。 残されたたい焼きはしっぽ側1/3、しかも餡少なめ。 「にゃーの・・・ にゃーのたいやき・・・ にゃーさんが買ってくれた、イオが持ってきてくれた・・・ にゃーのたいやきが・・・」 我に返った久遠、腕に乗るエルガにようやく気づいた。 「お・・・おい、エルガ・・・」 声をかけるも、うなだれたまま返事をすることもなく、小さく震えるエルガ。 「・・・ゆるさにゃい。」 ぴくり。 エルガの尻尾が小さく動いた。 「ぜったいに、ゆるさにゃい!!」 顔を上げると同時に、久遠の腕から飛び降りて傍の卓上にちらばる自らの装備を瞬時に装着し、 「ゆるさにゃいんだからぁあぁっ!!!」 普段の姿からは想像もできない大きな叫びを上げると、ありったけの跳躍力で筐体よりも高く飛び上がり、びくりと驚いたCTaに向かってヤンチャオを振りかざした。 「きゃっ!!!」 なんとか身を引いてかわすCTaだったが、髪の毛が数本、鮮やかに斬られ宙を舞う。 「もう、いくらCTaのねーさまとはいえ、やっていいことと悪いことがあるの! 今日は、絶対に許してあげにゃいんだからぁっ!」 着地したエルガは止めようとする久遠を巧みにかわし、再び大きく跳躍して逃げるCTaに斬りかかる。 「ちょっと! エルガ、やめてっ・・・痛っ!!!!」 CTaが思わず顔の前に出した腕に3本の爪痕が走り、血がにじみ出た。 慌てたコリンが、緊急用神姫捕獲ネット射出機を持ち出してイオと共にエルガを狙い数発打ち出すも、エルガはCTaを追いかけつつ鮮やかにかわし、切り刻んで回避してしまった。 むしろエルガを追う久遠が、電撃ネットを被ってしまい頭がチリチリに。 そして、CTaがフロアの出入口まで来たとき。 「ふーっ!ふーっ!!!」 しっぽの毛を逆立てて怒るエルガは、受付カウンターを足場にCTaを大きく飛び越すとCTaの前に立ちはだかった。 「わ、悪かった! あたしが悪かったよぉ!!!」 久遠にも滅多に見せる事のない、今にも泣き出しそうな顔のCTa。しかしエルガは、 「謝ってももう遅いのだ! にゃーの怒りの一撃を受けるのっ!」 CTaの顔に狙いを定めて飛びかかった。 エルガのあまりの様子に硬直したCTa・・・ ざく。 ・・・ヤンチャオは、腕に・・・ 間に入った久遠の左腕に、深々と刺さっていた。 「いい加減にしろ、エルガ!!!」 すぐさまがっちりと右手でエルガを捕獲。 「はーなーせー!! はなすのだーー!! はなせーーー!!」 久遠の手の中で暴れに暴れる。 なんとか抑える久遠だったが。 「うにぁ~!!!」 がぶっ!! そんな久遠の手に、エルガは容赦なく噛みついた。 「ふーっ! ぐるるる・・・!!」 久遠の右手に噛み付くエルガの眼は、普段とはまったく異なる鋭く深い翠色に。 「うるるぅぅぅ・・・ ぐるるる・・・」 噛みついている部分からたらりと血が流れるも、久遠は払いのけもせずにそのまま噛み付かせている。 CTaは手を出すことができず、彼らを冷や汗混じりで見つめるだけ。 騒ぎを聞きつけ他のフロアから集まった野次馬たちの視線も彼らに集まる。 数分の後。 「・・・エルガ・・・。」 久遠が噛み付いたままのエルガの頭をそっとなでた。 「・・・うみぃ?」 はっと我に返ったエルガ。 目の前には血だらけの久遠の手。 「落ち着いたか? ・・・今日は本当に厄日だな、おまえ。。。」 叱ることもなく、そっと血の付いたエルガの頬をぬぐう久遠。 ようやく我に返り、目の前の惨状に自分が何をしたのか理解したエルガは、瞬時に泣き顔になった。 「ふぇ・・・」 「泣くんじゃない。ちょっと野生が顔を出しただけだろ?」 ・・・「野生の力」。 猫爪型の持ち味でもあり欠点でもある「野生」。 普段バトルをする猫爪であれば、バトルにて「野性」を発散させることもできようが、久遠のところでは発散させる機会も少ない。加えて、今日のように色々と積み重なってしまうと・・・マイナス方向に爆発してしまうことも。 しかし付き合いも長く、猫爪・・・いや、エルガをよく理解している久遠はむやみに叱る事をしない。 -なぜなら、猫爪としての「エルガ」を否定してしまうから- 。 「イオに聞いたよ、朝から大変だったみたいだね。」 エルガが今、何を求めているのか- 。理解している久遠だからこそ、痛いほどによくわかっていた。 血が付かないように気遣いつつ、久遠はエルガを手で包み込むように抱き上げた。 「野生」に流され、孤独を覗き込んでしまったエルガを、大きなココロで包み込んであげたい- 。 「ごめんな、気がついてあげられなくて。」 「ううん、にゃーさん。 ・・・にゃーさん、ありがとなの。」 エルガは久遠の指にぎゅっと抱きついた。 「でもね。女の子の肌に、まして顔に傷つけようとするのはいけないよ。」 穏やかに語りかける久遠の手の中で、涙目で頷くエルガ。 「うみぃ、ごめんにゃさい・・・。」 「はは、俺は大丈夫だから。 それよりも、CTaに謝ろうか。」 「うにゃん。。。」 エルガを左手に乗せて振り返ると、先にCTaが口を開いた。 「ごめんな・・・。 エルガ、イオ・・・久遠。。。」 素直に頭を下げるCTa。 エルガもまた、久遠の手の上で頭を下げる。 「にゃーこそ、ごめんなさいなの。 飛びかかって、怪我させて、ホントごめんにゃさいなのっ!」 その光景に、周囲の人だかりから何故か拍手が沸き起こる。CTaの肩に座ったドゥルシラがぼそりと呟いた。 「ここの週末アトラクションと勘違いされてしまったみたいっすよ・・・?」 一瞬どうしていいか迷う久遠の足元でイオが目で合図を送っている。 「とりあえず・・・場に合わせればいいのかな?」 久遠はエルガを手にしたまま、血だらけの手を振って野次馬改めギャラリーにこたえる。 CTaもとりあえず手を振ってみる。 より大きな拍手が沸き起こった。 ・・・この出来事は、後に神姫とマスターの深い絆を示した、東杜田技研のアトラクションとして随所で取り上げられたと言う。 >>久遠の怪我は・・・?(その34.5へ)>> <<トップ へ戻る<<